校舎LANの無線・有線・給電設計
多数の端末が同時に教材を利用する校舎で、無線の収容能力と有線の回線容量、APへの給電を一体として設計することである。必要な通信量を区間ごとに集計し、機器や回線の故障時にも業務を続けられる構成を検討する。
イマシルちゃんの解説
教室の全員が同時に動画を見ると、アクセスポイントだけでなく、その先のスイッチや配線にも通信が集まるんだ。
新しいWi-Fiに交換しても、教室から先の回線が足りなければ動画は止まってしまうよ。
LANケーブルでデータと電力を一緒に届けるPoEを使う場合は、アクセスポイントに必要な電力を供給できるかも確認するんだ。
校舎LANの設計では、端末一台に必要な通信量を教室ごと、校舎全体へと積み上げて考えるよ。
無線・有線・電源を別々に選ぶのではなく、端末から教材のサーバまでつなげて確かめることが大切なんだね。
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より深い解説
端末から教材サーバまでをたどる
校舎内で多数の端末を利用する場合、電波が届くだけでは十分ではない。必要な人数へ必要な通信量を提供できることと、故障や保守の影響を抑えられることを確認する。
カバレッジは電波が必要な場所へ届く範囲、キャパシティは同時に扱える通信量に関わる。空いている教室で一台だけ高速に通信できても、授業中の全員の利用を支えられるとは限らない。
| 対象 | 設計で確かめること |
|---|---|
| 端末とAPの無線区間 | 対応帯域、チャネル、幅、電波品質、同時利用時の実効容量を確認する |
| APとフロアスイッチ | 有線ポートの速度と給電能力を確認する |
| フロアからコアへの回線 | 複数教室の通信を集約して運べるかを確認する |
| コアからサーバ側への回線 | 校舎全体の通信が集中する範囲を確認する |
| サーバと共通サービス | 配信性能、認証、DHCP、監視を確認する |
WLCによる集中管理を採用しても、端末のデータが全てWLCを通るとは限らない。APから直接LANへ転送する方式と、コントローラへトンネル転送する方式がある。令和5年度の問題では与えられた転送方式を使い、管理通信の経路と教材データの経路を分けて読む。
動画の容量を必要なビットレートへ直す
令和5年度午後Ⅰ問3では、1時間当たり7.2Gバイトの教材を端末50台が利用する教室を考える。10進の単位を使い、一定のレートで転送するとした基礎計算は次のようになる。
端末一台のレート = 7.2 × 10^9 × 8 ÷ 3,600
= 16Mbit/s
教室一室の合計 = 50台 × 16Mbit/s
= 800Mbit/s
バイトをビットへ直すために8を掛け、時間を秒へ直して割る。ファイルの容量を、そのまま回線のbit/sの値と比べてはいけない。
仮に15教室が全て同時に同条件で通信し、各端末向けのデータが共通のサーバ側回線を通るなら、合計は12Gbit/sとなる。これは条件から求める有効データ量の計算であり、そのまま機器の公称速度と一致する必要容量ではない。
現実の動画は先読みや可変ビットレートによって短時間の通信量が変動する。ヘッダー、無線の待機、再送、別用途の通信、故障時の集約も考える。問題でどこまで含んだレートが与えられているかを確認し、既に含まれるオーバーヘッドを二重に加算しない。
トライバンドの中身を仕様で確かめる
トライバンドという呼び方だけでは、使う周波数帯の組合せは決まらない。2.4GHz帯・5GHz帯・6GHz帯の構成もあれば、2.4GHz帯と二つの5GHz帯無線機を持つ構成もある。
令和5年度の問題で扱うのは後者である。二つの5GHz帯無線機へ端末を分けることと、一台の端末が二つの帯域を束ねて使うことは別である。Wi-Fi 6の世代名に含まれる6を、6GHz対応という意味で読まない。
| 混同しやすい数 | 数えているもの |
|---|---|
| APの台数 | 物理的な機器の数を数える |
| 無線機の数 | 独立して運用チャネルを持つ無線回路の数を数える |
| アンテナや空間ストリームの数 | 信号の送受信系統や並行して運ぶデータ列を数える |
| SSIDの数 | 利用者が接続する無線LANの識別名を数える |
SSIDを増やしても独立したチャネルがその数だけ増えるわけではない。同じ無線機で提供するSSIDは通信時間を共有する。二つの5GHz帯無線機を持つ実装例はYamahaのトライバンド技術資料で確認できる。
チャネルの幅と同時通信の仕組みを分ける
チャネルボンディングは、基本となるチャネルを束ねて使用する周波数の幅を広げる方法である。例えば20MHz幅を二つ束ねれば40MHz幅になる。一接続の最大速度を高めやすい一方、近くのAPへ割り当てられる重ならないチャネルが減る。
複数教室で広い帯域を同時に使う場合、単独のAPで速い設定が校舎全体でも最適とは限らない。隣の教室や上下階のAPも含め、同じチャネルを待ち合う範囲を確認する。
Wi-Fi 6のOFDMAは、使用中のチャネル内の周波数資源をRUという単位に分け、複数端末へ割り当てる。MU-MIMOは複数端末の通信を空間的に分離する技術である。チャネルを広げること、周波数資源を分配すること、空間的に多重化することは異なる操作である。
これらの機能を有効にしても、電波の弱い端末や対応していない端末まで最大速度になるわけではない。受信信号と雑音の関係を示すSNR、再送率、チャネル利用率を合わせて評価する。詳細な原理はIEEE 802.11axの記事で扱う。
DFSによる退避を障害と区別する
日本の5GHz帯にはW52・W53・W56という区分がある。問題が扱うW53・W56では、共用するレーダーを検出した場合にDFSによって使用チャネルを変更する。
これは単に混雑しているチャネルを避ける機能ではなく、レーダーへの干渉を避けるための動作である。手動でチャネルを固定しても、必要な退避を無視して使い続けられるわけではない。
同じ無線機へ接続している端末が一斉に切れた場合は、レーダー検出やチャネル変更のログを確認する。AP再起動や給電不足でも似た症状が出るため、無線の切断だけでDFSと断定しない。退避先の事前確認などを行う実装では影響を短くできる場合もあるが、レーダー監視が不要になるわけではない。
周波数の利用条件は試験当時の前提と実設備の導入時点の制度を区別する。本稿では試験を読むための関係を扱い、個々の設備の屋外・車内などでの利用可否を一律に判定しない。
APの先の有線速度と配線を確認する
APの無線性能が向上しても、有線ポートがボトルネックになる場合がある。複数の無線機の通信を一つのポートへ集めるなら、その合計を運ぶ必要がある。
2.5GBASE-Tと5GBASE-Tは、ツイストペア配線で1Gbit/sより高い速度を提供するための方式である。IEEE 802.3bzで標準化された。10GBASE-Tを含め、APとスイッチ双方の対応、実際に交渉されたリンク速度、配線の条件を確認する。
既設ケーブルをそのまま使えるかは、カテゴリ名だけでなく長さや施工品質にも左右される。機器の仕様が高速でも、接続後に1Gbit/sでリンクしていればその値が実際の上限になる。
また、有線通信が全二重であっても、同じ方向へ流れる複数の映像を無制限に運べるわけではない。上りと下りを別々に集計し、サーバから端末へ向かう方向で集中していないかを見る。IEEE 802.3bzの公開ページに標準化の対象が示されている。
PoEは一ポートと装置全体の両方を確認する
PoEはLANケーブルを通してデータと電力を供給する仕組みである。電力を供給する側をPSE、受け取るAPなどをPDと呼ぶ。給電側で出せる電力と、配線の損失を経て受電側で使える電力は同じではない。
IEEE 802.3atのPoE+は給電側で最大30Wの区分である。APの全機能を使うための条件を満たせない場合は、より大きな電力を扱うIEEE 802.3btへの対応などを検討する。btにも種類があるため、規格名だけで全ポートが同じ能力を持つとは判断しない。
令和5年度の問題でも、APの更新と給電規格を関連付けて考える。ただし「Wi-Fi 6のAPは全機種でbtが必要」という一般化はしない。例えばYamaha WLX413の仕様では、給電条件によって同時に利用できる無線機の構成が変わる。
| 確認する値 | 不足した場合の影響 |
|---|---|
| 一ポート当たりの供給能力 | APが起動しない、または一部機能が制限される場合がある |
| スイッチ全体の給電予算 | 個々のポートは対応していても、全APを同時に給電できない場合がある |
| 電源冗長化後の供給能力 | 電源ユニット一台の故障で、必要な電力を維持できなくなる場合がある |
独自の例として、一台当たり40Wをスイッチ側で確保するAPを6台設置するなら、必要な合計は240Wになる。合計180Wのスイッチでは一ポートの最大値だけを満たしても不足する。実際の設計では仕様上の予約値と測定した消費電力も区別する。
認証とアドレス取得を無線の速度から切り離す
SSIDへ接続できることと、利用者として認証されて教材サーバへ通信できることは別の段階である。Enterprise方式ではIEEE 802.1XとEAPを使い、APやWLCが認証サーバへのやり取りを仲介する。RADIUSはその認証情報を運ぶために使われる。
認証サーバへの経路や設定が誤っていれば、電波が十分でも接続は完了しない。Wi-Fiの世代を更新しただけでWPA3の設定や証明書の検証まで自動的に整うわけではない。
IPアドレスの取得にはDHCPも関係する。端末とDHCPサーバが異なるサブネットにあるなら、端末側のブロードキャストをサーバへ届けるDHCPリレーを配置する。通常のルーティングがブロードキャストをそのまま別サブネットへ転送するわけではない。
調査では無線の接続、認証、VLAN、IPアドレス取得、サーバへの到達性を順に確認する。どこまで成功しているかを把握せず、APの出力だけを上げても解決しない。
冗長化と帯域増強は同じではない
STPはL2のループを防ぐため、冗長な経路の一部を転送に使わない状態にする。VRRPは端末などが利用するデフォルトゲートウェイを冗長化する。どちらも、敷設した全回線の容量を必ず足し合わせる機能ではない。
スタック構成では、複数の対応スイッチを論理的に一台として扱う。これとリンクアグリゲーションを組み合わせれば、複数の物理リンクを一つの論理リンクとして利用できる。異なる筐体へまたがる接続を束ねられるかは製品と構成条件に従う。
| 方法 | 主な目的 | 注意すること |
|---|---|---|
| STP | L2ループを防ぎ、障害時に別経路を使えるようにする | 待機している経路の容量を通常時へそのまま加算しない |
| VRRP | 次に送るゲートウェイを冗長化する | 上流の障害まで自動で検出できるとは限らない |
| スタック | 複数台を一つの論理的な装置として運用する | 制御や更新に共通の故障要因が残る場合がある |
| リンクアグリゲーション | 複数リンクへ通信を分散する | 一つの通信フローが全リンクの合計速度になるとは限らない |
通常のハッシュに基づくリンクアグリゲーションでは、同じフローを一つの物理リンクへ割り当てる。全体の通信量を分散できても、偏りが起きれば一部のリンクが先に混雑する。障害後の残りのリンクで必要容量を満たすかも検証する。
どの区間に通信が集中するかを説明する
各教室のAPへ届くデータは一室分でも、サーバ側からコアへ運ぶ区間には複数教室の通信が集まる。図の線の本数だけでなく、その線の先に何台の端末があるかを考える。
令和5年度の問題で帯域増強の効果を比べるときも、コアとサーバ側のスイッチの間が何教室分を運ぶかを確認する。全てのリンクが同じ速度なら、通信が多く集まる区間ほど先に上限へ達しやすい。
改善案は「スイッチを高速化する」だけで終えず、対象区間と理由を示す。例えば「複数教室向けの映像が合流するため、サーバ側の集約回線を増強する」と書けば、構成図と設計判断が対応する。
保守作業でループを作らない
ネットワーク機器の故障だけでなく、交換時の誤配線や設定の復元漏れも障害の原因になる。L2ループができると、ブロードキャストなどが繰り返し転送されて回線や機器を圧迫するおそれがある。
複数のNICを持つサーバやAPの接続でも、ブリッジ設定と配線の組合せによって意図しないL2経路を作らないか確認する。単に「二本のケーブルを挿したら必ずループ」とは言えず、機器がどのように転送するかまで見る必要がある。
保守対象を洗い出すときは、全機器を一律に挙げず、問題で利用者側が交換する機器と保守契約の対象を区別する。予備機に必要な設定、ポートとケーブルの表示、復旧後のリンク状態を作業手順へ含める。STPやループ検知も、誤配線を起こさない手順と併用する。
午後問題での問われ方
| 問いの観点 | 答えるための根拠 |
|---|---|
| 一教室の必要帯域 | データ量をbit/sへ変換して同時利用端末数を掛ける |
| トライバンドやチャネル幅 | 無線機の構成と、一つの通信で使う周波数幅を区別する |
| AP更新時の給電条件 | 一ポートと装置全体の供給能力を照合する |
| 帯域増強が有効な区間 | 複数教室のデータが集まる経路を特定する |
| 冗長化と保守 | 正常時だけでなく、故障後と交換作業中の経路を確認する |
本稿は令和5年度午後Ⅰ問3を題材にした学習用の解説である。計算条件や保守対象の指定は、公式の問題文と照合する。
参考資料
- IPA:令和5年度春期NW午後Ⅰ問題(問3)
- IPA:午後Ⅰの解答例
- IPA:午後Ⅰの採点講評
- Yamaha:二つの5GHz帯無線機を使う構成例
- Yamaha:給電条件と無線機能の仕様例
- IEEE:2.5GBASE-Tと5GBASE-T
- IEEE:4ペアを使う給電の標準化
- Cisco:APの電力要件と給電規格
実際の試験ではここに出る!全1問
ネットワークスペシャリスト
- 午後Ⅰ