IPoE
IPパケットをイーサネットのフレームへ直接収容する通信方式である。PPPoEで使うPPPセッションを確立せずに通信し、日本のインターネット接続サービスでは主にIPv6を用いる接続方式を指す。
イマシルちゃんの解説
IPoEは、IPパケットをイーサネットのフレームにそのまま載せて運ぶ通信方式だよ。
家庭の光回線で使う場合も、PPPoEのように接続用のIDとパスワードをルータへ設定する方式とは、事業者のネットワークにつながる手順が違うんだ。
国内のIPv6 IPoEサービスでは、事業者から割り当てられたアドレスでIPv6のインターネットへ接続するよ。
IPv4だけに対応したサイトも使うときは、IPv4のパケットをIPv6の通信に載せて運ぶ技術を組み合わせるの。
「IPoEにしたら何でも自動的に速くなる」という意味ではなく、どんな通信をどの経路で運ぶかが大切なんだ。
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より深い解説
一般的な意味と国内サービスでの意味
IPoEはIP over Ethernetの略である。IPパケットをイーサネットのデータ部分に入れて送るため、IPv4でもIPv6でも利用できる。IPv4の収容方法はRFC 894、IPv6はRFC 2464に記述されている。
一方、日本で光回線の接続方式として「IPoE」と案内される場合は、フレッツのNGNなどを通してIPv6インターネットへ接続するサービスを指すことが多い。NGNは通信事業者が運用するIPネットワークであり、インターネットそのものと同じではない。回線を契約しただけでなく、対応するインターネット接続サービスの契約・開通も必要になる。NTT西日本の接続方式説明でも、IPv6 IPoEとIPv4サイトへの接続は区別されている。
この二つの意味を分けると「IPoEは必ずIPv6なのか」という疑問を整理できる。一般的な技術名としてはIPv4も含むが、国内サービスの仕様を読む場面では、そのサービスが提供するIPv6接続と付加機能を確認する必要がある。
パケットの収容方法とPPPoEとの違い
イーサネットでは、フレーム内のEtherTypeという識別欄で上位のプロトコルを区別する。IPv4は0x0800、IPv6は0x86DDである。宛先が同じリンクにいなければ、IPパケットの宛先は通信相手のまま、フレームの宛先MACアドレスを次のルータにして送る。
PPPoEはイーサネット上にPPPの接続を作り、その中でIPパケットを運ぶ。比較すべきなのはIPの新旧だけでなく、途中にどの通信手順を挟むかである。
| 観点 | IPoE | PPPoE |
|---|---|---|
| IPパケットの収容 | イーサネットへ直接収容する | PPPとPPPoEで包んで収容する |
| 通信開始時の手順 | IPアドレスや経路などを設定する | 相手を探索し、PPPセッションを確立する |
| 利用者の認証 | 回線との対応付けなど、サービス側の仕組みによる | PPPの認証を利用できる |
| IPの版との関係 | IPv4・IPv6のどちらも扱える | IPv4・IPv6のどちらも扱える |
| 典型的なIP MTU | 通常のイーサネットでは1,500オクテット | Ethernetペイロードが1,500なら通常1,492オクテット |
PPPoE側の差は、PPPoEヘッダー6オクテットとPPPのプロトコル識別欄2オクテットの計8オクテットである。ただし、大きなフレームへの対応と交渉によって制限を緩和する方法もある。したがって「PPPoEのMTUはどんな環境でも同じ」とは限らない。基本構造はRFC 2516、拡張はRFC 4638を参照できる。
国内のIPv6接続は誰が何を担当するか
利用者はISPとインターネット接続を契約する。IPv6 IPoEの接続基盤を提供する事業者をVNEと呼び、ISPがその基盤を利用してサービスを提供する構成がある。利用者宅からNGNを通り、接続基盤を提供する事業者のネットワークを経由してIPv6インターネットへ進む。
利用者側ではIPv6アドレスだけでなく、外部へ送るための経路も必要になる。ルータ広告であるRAはデフォルトルータやプレフィックスなどを知らせる。端末が通知されたプレフィックスから自分のアドレスを生成する方式がSLAACである。ルータが下流のLAN用にプレフィックスの委譲を受ける場合はDHCPv6-PDを使う。端末へのアドレス設定と、ルータへのプレフィックス委譲は役割が異なる。
実際の設定方法は回線サービスや宅内機器の構成で変わる。RAとDHCPv6の両方が見える場合もあるため、「IPv6アドレスが付いたからすべて正常」とは判断しない。IIJの接続構成説明では、接続事業者のプレフィックスがRAやDHCPv6を通じて利用者へ割り当てられる関係を確認できる。RAと近隣探索の基本はRFC 4861で定義されている。
IPv4の通信を組み合わせる理由
IPv6の経路が利用できても、IPv4だけに対応した通信相手へそのままIPv6パケットを送れるわけではない。このため国内のIPoEサービスでは、IPv4パケットをIPv6パケットの中に入れて運ぶIPv4 over IPv6を組み合わせることがある。
代表例のDS-LiteとMAP-Eは、どちらもIPv6ネットワークを運搬に使うが、IPv4のアドレスやポートの変換を担当する場所が異なる。
| 観点 | DS-Lite | MAP-Eのアドレス共有構成 |
|---|---|---|
| 利用者側の役割 | B4がIPv4パケットをIPv6でカプセル化する | CEが割り当てられたアドレス・ポートの規則に従って変換し、カプセル化する |
| 事業者側の役割 | AFTRがカプセル化を解除し、IPv4のアドレス・ポートを変換する | BRがIPv4とIPv6のネットワークの境界で中継する |
| IPv4アドレスの共有 | 事業者側の変換装置で複数利用者が共有する | 同じアドレスを使う利用者ごとにポートの範囲を分ける |
| 機器の確認 | DS-Liteと契約サービスへの対応を確認する | MAP-Eと契約サービスへの対応を確認する |
これはRFC 6333とRFC 7597の構成に基づく整理である。IPoEそのものと、これらのIPv4通信技術を同じ名称として扱ってはいけない。
アドレス共有型サービスでは、外部から宅内サーバへ接続する際のポート転送や、特定のポートを前提とするアプリケーションに制約が生じる。制約は方式とサービスの実装によるため、「IPoEではVPNが一切使えない」とは言い切れない。固定IPv4アドレスの提供条件や、利用したいVPNの接続方式まで確認する。実サービスの例としてtransixのDS-Lite説明では、アドレス共有と対応ルータの必要性が明示されている。
速度とパケットサイズを別々に考える
PPPoEからIPoEへ変更すると、事業者網内で通る設備や収容方法が変わり、混雑の影響が軽減される場合がある。しかし、端末の無線LANや宅内ルータがボトルネックなら、接続方式だけを変えても改善しない。変更の効果は、混雑している区間を実際に回避できるかで判断する。
パケットサイズにも別の注意がある。IPv4 over IPv6では外側のIPv6ヘッダーを追加するため、単に「IPoEのMTUが大きい」とだけ見てよいわけではない。例えば外側の経路のMTUが1,500オクテットで、追加されるものが基本IPv6ヘッダー40オクテットだけなら、分割せずに収容できる内側のIPパケットは次の大きさになる。
内側のIPパケットの上限 = 1,500 − 40 = 1,460オクテット
この値は条件を限定した計算例であり、全サービス共通の設定値ではない。実際には装置の分割・再構成方法や経路のMTUに従う。IPv6の経路MTU探索ではICMPv6のPacket Too Bigを利用するため、必要なICMPv6まで遮断すると小さな通信だけ成功して大きな転送が止まることがある。動作はRFC 8201で確認できる。
接続できないときの切り分け
最初に「IPv6の通信が失敗しているのか」「IPv4を運ぶ付加機能だけが失敗しているのか」を分ける。その後、アドレス、経路、名前解決、通信サイズの順に確認すると、無関係な設定変更を減らせる。
| 状況 | 確認する情報 | 判断の方向 |
|---|---|---|
| IPv6アドレスを取得できない | 開通状態、RA、プレフィックス取得、機器の接続モード | 回線側の提供状態と宅内の設定を調べる |
| IPv6は使えるがIPv4は使えない | トンネルの状態、接続先情報、契約方式への対応 | IPv4 over IPv6の機能を調べる |
| IPアドレスを指定すると通るが名前で通らない | DNSサーバ設定、A/AAAAレコードへの応答 | 名前解決の問題を調べる |
| 大きな通信でだけ止まる | MTU、ICMPv6、必要に応じてTCPのMSS調整 | カプセル化後のサイズと経路を調べる |
| IPv4・IPv6とも遅い | 有線と無線の差、機器の処理負荷、時間帯ごとの傾向 | 宅内と事業者網のどこが混雑するか絞る |
IPv6にグローバルなアドレスが付くことと、外部からの通信を許可することも別である。宅内ルータや端末のファイアウォールで必要な通信だけを許可する。IPv4側のNATがあることだけを防御の前提にしない。
午後問題につながる判断
例えば「IPv6のWebサイトは閲覧できるが、IPv4だけに対応した業務サーバへ接続できない」という状況では、光回線全体の故障と決め付けない。IPv6の経路は動いているという情報を使い、IPv4を運ぶトンネルやアドレス・ポート変換の状態へ調査を絞れる。
また、外部公開サーバを持つ拠点で接続方式を変更する場合は、速度だけで方式を選べない。外部から利用するIPv4アドレスとポートが継続して使えるか、IPv6で代替するなら接続元も対応しているかを確認する必要がある。通信の方向とIPの版を明示してから、各区間で必要な機能を当てはめることが重要である。
参考資料
- NTT西日本:IPv6 IPoE接続とは — 国内サービスの接続範囲を確認できる。
- IIJ:About FLETS IPv6 Access — PPPoEとIPoEの接続構成を比較できる。
- RFC 6333・RFC 7597 — DS-LiteとMAP-Eの境界装置・変換方式を確認できる。
- RFC 8201 — IPv6の経路MTU探索を確認できる。